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青山学院大学ポップカルチャーファンクラブのメンバーが連載しています

BTSから見るKPOPの未来

私はKPOPオタクとして4年目を迎えている。現在のKPOPグループでトップを牽引しているのはBTSだ。BTSがなぜ成功したかを考察し、その後現在のKPOP業界の問題点を挙げ、未来のKPOPに期待する姿を述べたいと思う。結論から述べると、私はこれからのKPOPグループに「アイドル兼アーティスト」の役割を期待する。

 若者は「憧れ」からKPOPアイドルのファンになることが多いが、その中でもBTSが特に成功している理由として私が重要だと感じていることは2つある。

 1つ目に、「ファンの共感」を何よりも大切にしているグループなことだ。ポン・ジュノ監督はアカデミー賞授賞式でマーティン・スコセッシ監督の「最も個人的なことは最もクリエイティブなことである」という名言を引用していたが、これはBTSがまさに行ってきたことだ。BTSの歴史をもとに説明したく、まずデビュー当時の話をする。韓国では「三放世代」「五放世代」といった言葉が流行った。これは恋愛、結婚、出産、就職さらにはマイホームを「放」棄する若者を指す。韓国の学生は日本にある部活を体験せず一生を左右する大学入試「スヌン」に向けて勉強するが、それでも就職難が続く社会に対して諦める若者が続出した。それに疑問を持ち、社会を変えたいと願うメンバーを中心にBTSは誕生した。2017年に正式に改名されるまで、BTSは「防弾少年団」といったグループ名だったがそれは「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」といった意味だ。デビュー曲『No More Dream』ではヒップホップサウンドで諦めた若者に対して喝を入れている。「俺には夢がないんだ」「大学のことは心配しないで」という五放世代を代弁した歌詞から「お前の夢は何なんだ」「お前は嘘つきだ、偽善者だ」と強烈に語りかける。BTSはあまりに独特なコンセプトから最初の頃は売れなかった。しかしその後も「若者の代弁者」といったコンセプトのもと、曲調を流行に合わせながら活動を続け多くの人に受け入れられるようになった。BTSの転換期となった『Wings』と『Love Yourself』では「花様年華」という、青年期にあらゆるきっかけで精神トラブルを抱えた7人が自分を愛せるようになるストーリーを打ち出した。こうして「自分を愛する」というテーマが人々の共感を呼び、『Fake Love』では初めてアメリカのビルボードで公演を行った。コロナ禍には人々に明るい音楽を届けたいとの思いから初めての英語曲『Dynamite』を発表しグラミー賞にノミネートされたが、これは世界中のファンに明るい音楽を届けたいとの思いから誕生し、結果として幅広いファンを獲得した。このように等身大のBTSメンバーの思いから始まり、「若者の代弁者」という軸に乗せて曲で表現し、流行や時代を追いながら活動したことで多くの共感を呼んだことがBTSの成功最大の秘訣だろう。

 2つ目に、メンバーの本音が伝わりやすいグループなことだ。これは3つの観点から見ていく。1つ目にソーシャルメディアだ。BTSはKPOPグループの中でいち早くソーシャルメディアでの発信を始めた。メンバー7人だけが発信できるTwitterアカウントや、Weverseという登録した人だけが入れるコミュニティが人気だ。7人は毎回のコンサートや新曲発表の後に写真を載せてファンに感謝する。特にリーダーはIQ148ある天才なのだが詩の才能に秀でており、美しい言葉で彼の率直な気持ちを書く。他にもメンバーが行った展示会や読んだ本、聴いた曲をよく紹介する。このようにファンはソーシャルメディアを通じてBTSと繋がっている実感を持つ。2つ目に音楽だ。BTSはデビュー以来ほぼ全ての作詞作曲にメンバーが携わっている。特にリーダーは多くの作詞に携わっており、メンバー全員で話し合って出てきた本音が歌詞に反映されている。これに加えて新しいアルバムが発売される度リーダーが生放送で制作秘話を1曲ずつ話すため、ファンはより曲への思いを強くする。3つ目に映画だ。BTSのワールドツアーは大規模で演出も豪華だが、毎ツアー終了後にビハインド映画が作成され、BTSのコンサートでの努力や思いをファンは知ることができる。以上3点から分かるようにBTSは他のどのアーティストよりも本音をさらけ出しており、それによってファンは共感を高めることができるのだ。

 この2つはKPOPアイドルだけでなく、全ての表現者が学べる点であると感じる。一方でこの2つができないKPOPアイドルが多い。自己表現をすべて制限されているのだ。一般的にKPOPアイドルは事務所にとって優等生であることが求められる。曲やコンセプト、ミュージックビデオは全て事務所だけで決め、それを上手にこなせる人が選ばれてデビューする。この影響や過酷な労働環境から、最近KPOPアイドルでは精神的な問題で休養する人が多い。私は急に事務所の体制を変えることは難しくても、KPOPアイドルへの指導としてより良く変えられる部分があると考えている。BTSの例をとって2点考えを述べる。

 1点目にチームワークを重んじることだ。BTSはデビュー前から喧嘩をしたら7人全員で話し合って解決し、どんなに小さいことでもプロデューサーに報告していた。またデビュー前から “teamwork makes the dream work.”(チームワークが夢をかなえる) といった文をTwitterに書き込み、今でも言い続けている。このようにプライベートを宿舎で、仕事を全世界で共にするメンバーとの関係性を重要視していた。良いチームでは成功の可能性が何倍にも増大し、つらいことも一緒に乗り越えられる。そのようなチームにするために本音で話し合う場を設け、チームワークの大切さを教えることが重要だ。

 2点目にメンタルケアの徹底だ。BTSはデビュー前からメンタルケアカウンセラーと面談する機会を持っていた。BTSほど世界的に成功したアジアアーティストは稀であり、その道中には多くの困難や試練が襲った。その中でメンタルケアは欠かせなかった。彼らが書く歌詞に胸を打たれる理由の1つに、普段から気持ちを話していたためにメンバー個人の考えが整理されていたことが挙げられると思う。『Love Yourself』のコンセプトもこういった普段の取り組みから提案されたのだろう。BTSの中でどれほどメンタルケアが浸透しているかは、バラエティ番組でショートムービー撮影企画をしていた際に現れる。メンバーから「撮影」「監督」「メイク」と次々係が提案される中、「メンタルケア」係も出てきて採用されたのだ。最近メンタルヘルスは世界中で話題な一方、学生の間で「悩みを相談するのは恥だ」という意識が浸透し、カウンセリングをためらう人が多い。敏感な青年期の練習生・アイドルにこそメンタルケアを徹底してもらいたく、そのために指導が必要だと感じる。

 私は未来のKPOPには、ただ言われたことをこなして「憧れ」となるアイドルだけでなく、自ら考え作成に携わり本音が聞ける「共感」の的となるアーティストを期待する。そのためにはチームワークとメンタルケアの重要性を会社とメンバーが理解し、実践することが必要だ。KPOPアイドルの技術はとても高く、そこにアイドル本人の考えや気持ちが加わることでより幅広いファンの心をつかみ、長く愛されるアーティストになると思う。

(黒糖タピオカ)